返品の山を「ただの作業」で終わらせていませんか?
返品が届くたびに検品して、再販できるか確認して、返金処理をして、在庫を戻す。アパレルを小さく運営している方なら、この流れが日常になっているはずです。
そのとき、返品理由の欄に「思ったより大きかった」「写真と色が違う」「生地が薄い」と書かれているのを、「まあ、よくあることだよね」と流していないでしょうか。
私は2010年からECを運営してきました。Amazon、メルカリShops、eBay、Shopifyなど複数のプラットフォームで中古品を扱い、実際に在庫を持って販売するスタイルです。その経験からいえば、返品やクレームの文面はお客様が無料で教えてくれる「商品企画へのフィードバック」です。ただ、件数が増えると読み切れず、結局「なんとなくの印象」で判断してしまう。ここが一番もったいないところです。
この記事では、返品理由の傾向分析をAIに任せ、商品企画のムダを減らしていく流れを紹介します。読み終えるころには、次のことがわかります。
- 返品理由をAIで分類・集計する具体的な3ステップ
- そのまま使えるプロンプト(AIへの指示文)の例
- 分析結果を型紙・サイズ表・撮影・発注数にどう反映するか
- AI任せにすると危ない部分と、人間が必ず確認すべきポイント
最初にお断り:この記事の「実例」について
先に正直にお伝えします。私の専門はアパレルの製造ではなく、中古品のEC運営と、トレーディングカード・コレクティブルの実店舗経営です。ですから、特定のアパレル企業の内部事例を、さも自分の実績のように語ることはしません。
この記事で扱うのは、次の2つです。
- 私自身の実体験:EC運営での返品・クレーム・問い合わせ文をAIで分類し、仕入れや商品ページの改善に活かしてきた経験
- 小規模アパレルを想定したモデルケース:実在の特定企業ではなく、よくある状況を組み合わせて作った例(文中で「モデルケース」と明記します)
分析の考え方や手順は、中古品でもアパレルでも共通します。「うちはアパレルだから参考にならない」と思わず、手順の部分を自社に置き換えて読んでください。
結論:高額な分析ツールは不要。必要なのは「返品理由の自由記述」と表計算ソフトだけ

先に結論です。
返品理由の傾向分析は、高額なBI(データ分析)ツールを入れなくても、AIと表計算ソフトで十分始められます。
理由は3つあります。
- 小規模事業者の返品データは数百件規模のことが多く、専用ツールでなくても扱える
- 分析の価値は、ツールの豪華さよりも「理由をどう分類するか」の設計で決まる
- AIは、人間が読むと何時間もかかる自由記述の文章を、短時間で整理するのが得意
逆に言うと、AIが苦手なのは「正確な集計」と「因果関係の断定」です。そこで役割分担を次のようにします。
| 作業 | 担当 | 自由記述の読み取り・分類・要約 | AI | 件数の集計・割合の計算 | 表計算ソフト(Excel/スプレッドシート) | 「なぜそうなったか」の判断・企画への反映 | 人間(あなた) |
|---|
この役割分担を守れば、AI初心者でも失敗しにくくなります。
モデルケース:3名で運営する小さなレディースアパレル

ここで、イメージしやすいように想定ケースを置きます。繰り返しますが、特定の企業ではなく、よくある状況を組み合わせた架空のモデルケースです。
- オリジナル企画のレディース服を、自社ECと小さな実店舗で販売
- スタッフは3名。企画・撮影・発送・接客を兼任
- シーズンごとに十数型を小ロットで生産
- 返品は毎月発生するが、理由は返品伝票のメモ欄に自由記述で残っているだけ
この店では、次のような「あるある」が起きていました。
- 返品が多いと感じる商品はあるが、どの商品がなぜ多いのか、感覚でしか語れない
- 「サイズ感」の返品が多いと思っていたが、実際は「丈」なのか「身幅」なのか「袖」なのか区別されていない
- 企画会議では、売れた商品の話ばかりで、返品された商品の話は後回し
このような状態から、次の3ステップで分析を進めます。
ステップ1:返品データを集めて「匿名化」する

集めるデータの項目
まず、直近半年〜1年ぶんの返品データを1つの表にまとめます。ExcelかGoogleスプレッドシートで十分です。入れる列の例は次のとおりです。
- 返品日
- 商品名(または商品コード)
- サイズ
- カラー
- 販売チャネル(自社EC、モール、実店舗など)
- 返品理由(自由記述。お客様の書いた文章、またはスタッフのメモ)
- 返品後の状態(再販可、B品、廃棄など)
ポイントは、自由記述の返品理由を、できるだけそのまま残すことです。「サイズ違い」というプルダウンの選択肢だけでは、本当の理由が潰れてしまいます。「着丈が思ったより短くて、ワンピースとして着づらい」という文章のほうが、企画にとってはるかに価値があります。
必ず削除する情報
AIに文章を読ませる前に、個人情報を取り除きます。ここは省略しないでください。
- お客様の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 注文番号(必要なら連番などに置き換える)
- 返品理由の文中に出てくる個人名や勤務先など
分析に必要なのは「どの商品の、どのサイズで、どんな理由か」であって、「誰が」ではありません。個人が特定できる情報は最初から表に入れない設計にしておくと、事故のリスクを下げられます。
なお、AIサービスごとに入力データの扱い(学習への利用の有無など)は設定や契約プランで異なり、仕様も変わります。執筆時点の情報に頼らず、利用するサービスの設定とルールを必ず自分で確認してください。
私の実体験:集めてみて最初に気づいたこと
私の中古品ECでも、最初にやったのはこのデータ整理でした。返品やクレームの連絡は、モールのメッセージ、メール、実店舗での口頭など、あちこちに散らばっています。1つの表にまとめるだけで、「同じ種類の指摘が、別の場所で何度も出ている」ことに気づけました。
実はここが、分析の第一の成果になります。AIを使う前に、データを一箇所に集める作業自体が、気づきを生むのです。
ステップ2:AIで返品理由を分類・タグ付けする
いきなり「分析して」と頼まない
初心者がやりがちなのは、データを貼って「返品理由を分析してください」と丸投げすることです。これだと、AIは毎回違う切り口でまとめてしまい、再現性がありません。
おすすめは、分類のルール(カテゴリ)を先に決めて、そのルールで1件ずつタグ付けさせる方法です。アパレルなら、たとえば次のようなカテゴリが使えます。
- サイズ:着丈が短い/長い
- サイズ:身幅がきつい/ゆるい
- サイズ:袖丈・肩幅
- 色味:写真と実物が違う
- 素材感:生地が薄い/透ける/硬い/チクチクする
- デザイン:イメージと違う/似合わなかった
- 品質:縫製・ほつれ・汚れ・不良
- 配送:破損・遅延
- お客様都合:注文ミス・重複購入
- その他・不明
カテゴリを細かくしすぎると集計が大変になり、粗すぎると使えない結果になります。最初は10個前後を目安にし、「その他」が多すぎるようなら後で見直します。
プロンプトの例
ChatGPTなどの生成AI(文章を作ったり整理したりするAI)には、次のように指示します。執筆時点で、ChatGPTの現行モデルはGPT-5系ですが、どのAIでも考え方は同じです。
あなたはアパレルの商品企画を支援するアナリストです。
以下は返品理由の一覧です(個人情報は削除済み)。
各行について、下のカテゴリから最も近いものを1つ選び、「カテゴリ」「根拠となる言葉」を出力してください。
当てはまらない場合は「その他」とし、無理にこじつけないでください。
推測で補わず、文章に書かれていることだけで判断してください。【カテゴリ】
着丈/身幅/袖・肩/色味/素材感/デザイン不一致/縫製・品質/配送/お客様都合/その他【出力形式】表(行番号|カテゴリ|根拠となる言葉)
【データ】
(ここに返品理由を貼り付け)
ここで重要なのは、「無理にこじつけないで」「推測で補わないで」と明記することです。AIは親切なので、情報が足りなくても、もっともらしく埋めてしまうことがあります。
一度に大量に貼らない
数百件を一度に貼ると、途中で分類の基準がぶれたり、行が抜けたりすることがあります。50〜100件ずつなど、小分けにして処理するのが安全です。出力された表は、元の表の横の列に貼り付けて管理します。
最初の50件は必ず人間が見る
最初の数十件は、AIの分類が自分の感覚と合っているかを、必ず自分の目で確認してください。ズレているなら、カテゴリの定義をプロンプトに補足します。たとえば「『丈』という言葉だけで着丈か袖丈か判断できない場合は『その他』にする」といった具合です。
この調整をしておくと、その後の精度が安定します。
私の実体験:カテゴリは運用しながら育てる
私の場合、実店舗のトレーディングカード事業でも、お客様からの問い合わせや要望をメモに残してAIで分類しています。最初に決めたカテゴリは、数週間使うと必ず「このカテゴリは細かすぎる」「ここは分けたほうがいい」と見直したくなります。
最初から完璧を目指さず、ざっくり作って、使いながら直すほうが、結果的に早く実用的な形になります。
ステップ3:集計して、商品企画の「具体的な行動」に落とし込む
集計は表計算ソフトで行う
AIに分類させた表ができたら、件数の集計はExcelやスプレッドシートのピボットテーブル(項目ごとに数を数える機能)で行います。AIに「集計して」と頼むこともできますが、数え間違いが起こり得るため、数字は表計算ソフトで確認するのが鉄則です。
見るべき切り口は、次の3つです。
- 商品別 × 理由カテゴリ:どの商品で、どの理由が多いか
- サイズ別 × 理由カテゴリ:特定サイズに偏っていないか
- 販売チャネル別 × 理由カテゴリ:ECと実店舗で理由に違いはないか
実店舗がある場合は、チャネル別の比較がとくに有効です。店頭では試着ができるため「サイズ」の返品は少なく、ECでは「サイズ」「色味」が多い、といった傾向が出やすいからです。
モデルケースで見えてきた傾向
先ほどのモデルケースでは、次のような傾向が見えてきたとします(あくまで想定です)。
- あるワンピースは、「着丈が短い」という理由が目立つ。しかも、特定のサイズに集中している
- ある淡い色のトップスは、「透ける」「写真より白っぽい」という理由が複数ある
- ある素材のスカートは、「思ったより硬い」という声があり、商品説明の「ハリのある生地」という表現が誤解を生んでいる可能性がある
- 実店舗では「デザイン不一致」より「色の好みの違い」が多く、ECでは「色味が写真と違う」が多い
傾向を行動に変える
分析は、行動に変わって初めて意味があります。上の傾向を、次のような企画・運用の改善に落とし込みます。
| 見えた傾向 | 考えられる打ち手 | 特定サイズで着丈の指摘が集中 | 次回の型紙でそのサイズの着丈を見直す/サイズ表に「着用時の丈感」を追記 | 淡色で透け・色味の指摘 | 裏地の追加を検討/自然光での撮影カットを増やす/「やや透けます」と明記 | 生地の硬さの指摘 | 説明文の表現を具体化(「ハリがあり、柔らかさは控えめ」など)/生地サンプルの再選定 | ECで色味の返品が多い | 撮影時の色補正ルールの見直し/モデル着用写真と平置き写真の色差を確認 | 返品が多い型に共通点 | 次シーズンの発注数を抑える/類似企画を見送る |
|---|
ここで効いてくるのが、「商品企画のムダが減る」という本題です。ムダは、次のような形で減っていきます。
- 同じ失敗を繰り返さない:返品が多い特徴(丈、素材、色)を、次の企画の段階でチェックできる
- 発注数の精度が上がる:返品率の高いサイズや型を、過剰に作らなくなる
- 撮影・説明文の改善で返品を予防:商品自体を変えなくても、伝え方の改善で防げる返品がある
- 会議が具体的になる:「なんとなく不評」ではなく「この理由がこの型に集中」と議論できる
AIに「企画会議用の資料」を作らせる
集計結果が出たら、それをAIに渡して、会議用の要約を作らせるのも有効です。たとえば次のように頼みます。
以下は、返品理由の集計結果です。
企画会議で使う1枚の要約を作ってください。
・上位3つの課題
・それぞれ考えられる原因の仮説(断定しない)
・次シーズンで確認すべきチェックポイント
※数字は私が渡したものだけを使い、推測で数字を追加しないでください。
私も実店舗では、店長との会議資料をAIで下書きしています。ゼロから作ると1時間かかる資料でも、材料を渡して骨組みを作ってもらえば、確認と手直しだけで済みます。浮いた時間を、判断や現場のことに使えるのが大きいです。
実店舗がある小さなアパレルほど、AI分析の相性がいい
ここまでEC中心に書きましたが、むしろ実店舗がある小規模アパレルこそ、この方法の恩恵が大きいと私は考えています。
- 店頭での接客メモも「データ」になる:「このスカート、丈が短いと言われた」「この色は店頭だと人気なのに、写真だと伝わらない」といったスタッフの一言を、日々メモしておく。それをAIに分類させれば、返品に至る前の「違和感」も拾えます
- 試着の反応をECの改善に使える:試着室での声は、サイズ表や説明文を書くうえで最良の素材です
- スタッフ間で情報共有しやすくなる:AIで要約した「今月のお客様の声」を共有すれば、属人化を防げます
私自身、トレーディングカードの店舗では、日々の接客での気づきや買取の相談内容をメモして、AIで整理しています。ジャンルは違っても、「お客様の声を、感覚ではなく材料に変える」という点は同じです。地方の小さなお店でも、特別な設備なしで、今日から始められます。
注意点:AI任せにすると危ないこと
1. 個人情報は絶対に入れない
先にも書きましたが、氏名・住所・連絡先・注文番号などは、AIに渡す前に必ず取り除いてください。「たぶん大丈夫」は通用しません。手順をルール化し、スタッフがやる場合も同じ手順を守れるようにしておきましょう。
2. 分類ミスはゼロにならない
AIの分類は、あくまで「高速な下読み」です。誤分類や、微妙なニュアンスの取りこぼしは起こります。次のような対策をおすすめします。
- 最初の数十件は、必ず人間が目視で確認する
- 集計後に目立った傾向が出た項目は、元の文章に戻って確認する
- 「その他」が多い場合は、カテゴリ設計を見直す
3. 件数が少ないときは、結論を急がない
小規模事業者のデータは、そもそも件数が少なく、偏りが出やすいです。たとえば、ある型の返品が数件あっただけで「失敗作だ」と決めつけるのは危険です。「傾向の気づき」と「確定した結論」は別物と考え、仮説として扱い、次の販売でも検証してください。
4. 相関と因果を混同しない
「着丈の指摘が多い」からといって、着丈が本当の原因とは限りません。モデルの身長、着用写真の撮り方、説明文の書き方など、他の要因が絡んでいる場合があります。AIが出す「原因の推測」は、あくまで仮説として受け止め、最終判断は自分で行いましょう。
5. 数字の計算をAIに任せきりにしない
生成AIは文章が得意ですが、数の集計や割合の計算で間違えることがあります。集計は表計算ソフトで行い、AIには「分類」と「文章化」を任せる、という分担を徹底してください。
6. 「返品を減らすこと」だけが目的にならないように
返品率を下げることばかり追うと、サイズ展開を絞りすぎたり、挑戦的な企画を避けたりして、売上の機会を逃すことがあります。返品は、お客様が納得して購入するための「調整コスト」でもあります。返品を減らしつつ、満足度と売上のバランスを見る視点を忘れないでください。
7. 法的・規約面の確認
返品・返金の条件は、販売チャネルの規約や、特定商取引法に基づく表示などとも関わります。返品ポリシーを見直す場合は、公的な情報や各プラットフォームの最新ルールを自分で確認してください。この記事は法律の助言ではありません。
今日から始める最小ステップ
「やることが多そう」と感じたかもしれませんが、最初の一歩は小さくて構いません。
- 直近の返品を、30〜50件だけ表にまとめる(個人情報は除く)
- 返品理由のカテゴリを、まず10個前後で決める
- AIに分類させて、自分の目で10件ほど確認する
- ピボットテーブルで、商品別・理由別の件数を見る
- 気づいたことを1つだけ、次の企画か商品ページに反映する
この「1つだけ反映する」が、実はいちばん大切です。分析して満足して終わるのではなく、小さくても行動に変えることで、ムダが減っていきます。
まとめ:返品は「損失」ではなく「無料の市場調査」
最後に、この記事のポイントを振り返ります。
- 返品理由の自由記述は、商品企画への貴重なフィードバックである
- 高額な分析ツールは不要。AIで分類し、表計算ソフトで集計すれば始められる
- 手順は「データを集めて匿名化 → カテゴリを決めてAIで分類 → 集計して行動に落とす」の3ステップ
- AIは分類と文章化、表計算ソフトは集計、人間は判断と企画反映、と役割分担する
- 個人情報の削除、分類の目視確認、因果の断定を避けることが落とし穴を防ぐ
- 実店舗がある小規模アパレルは、接客メモも含めて分析すると効果が大きい
私は16年以上ECを運営してきて、「売れた理由」よりも「売れなかった理由」「返ってきた理由」のほうが、次の一手のヒントになることが多いと感じています。AIは、その声を拾い上げる「聞き役」として、小さなお店にとっても心強い存在です。
「返品データはあるけれど、どう整理すればいいかわからない」「自社の商品に合ったカテゴリ設計を一緒に考えてほしい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。ツールを売り込むのではなく、あなたのお店の状況に合わせて、自分で続けられる形のAI活用をご一緒に整えます。まずは今月の返品を30件、表にまとめるところから始めてみてください。
AI導入・業務効率化のご相談を承っています
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