- 電話が鳴るたびに手が止まる。カルテはメモ用紙と頭の中に散らばっていく
- 結論:最初に買うべきものはありません。AIは「清書係・要約係・探し物係」で十分です
- なぜ電話予約が多い院は、カルテが散らかりやすいのか
- 半年間の全体像(想定ロードマップ)
- ステップ1(1か月目):AIを使う前に「入れない情報」を決める
- ステップ2(2か月目):走り書きを「型」に流し込む
- ステップ3(3〜4か月目):読み返す時間を減らし、電話の取りこぼしを防ぐ
- ステップ4(5か月目):フォロー連絡と、スタッフ向けマニュアルを作る
- ステップ5(6か月目):振り返って、続けるものだけ残す
- 実務上の注意点:ここだけは外さないでください
- 「うちのような小さな院には関係ない」と思っている方へ
- まとめ:半年かけて、少しずつ「読み返せるカルテ」にしていく
電話が鳴るたびに手が止まる。カルテはメモ用紙と頭の中に散らばっていく
施術の最中に電話が鳴る。手を止めて出て、予約表に鉛筆で書き込み、「あの方、前回は腰だったよな」と思い出しながら電話を切る。このとき走り書きしたメモは、あとでカルテに転記するつもりでも、夜になると疲れて後回しになりがちです。
電話予約が中心の整体院、接骨院、サロンでは、こうした「情報の取りこぼし」が日常的に起きます。ネット予約に切り替えればいいと分かっていても、常連のお客様には電話派が多く、簡単には変えられません。
この記事では、電話予約中心の整体院が、高額なシステムを入れずに、AIでカルテ(施術記録)を少しずつ整理していく半年間の進め方をまとめます。読み終えると、次のことが分かります。
- 何から手をつければ、現場が混乱しないか
- AIに任せてよい作業と、人間が必ずやるべき作業の線引き
- そのまま使えるプロンプト(AIへの指示文)の例
- 健康に関わる情報を扱ううえで、最初に決めておくべきルール
最初にお断りしておきたいこと
私は整体院を経営しているわけではありません。EC運営は16年以上で、eBay、Amazon、Shopifyなどで商品を販売してきました。いまはトレーディングカード・コレクティブルの実店舗も運営しています。そのため、「整体院で半年やってみた成果はこうでした」という体験談は書きません。数字や成功談を作ることもしません。
この記事の整体院の場面は、電話対応が多い小さな店舗で、私が実際に行ってきたAIによる事務効率化の考え方を、整体院の業務に置き換えた想定モデルです。タイムラインも「こう進めると無理が少ない」という設計図として読んでください。
結論:最初に買うべきものはありません。AIは「清書係・要約係・探し物係」で十分です

先に結論を述べます。
- いきなり高額な電子カルテや予約システムを入れる必要はありません。いまのメモ、紙、表計算ソフトのままで整理は進められます。
- AIの役割は、診断することではありません。走り書きを読みやすく整える(清書)、長い経過を短くまとめる(要約)、過去の記録から必要な情報を探す(検索の補助)という3つです。
- 健康情報は特にデリケートです。お客様の氏名・電話番号・住所・生年月日をAIに入力しない仕組みを、最初の1か月で作ります。
- 半年間は「全部を一気に変える」のではなく、1か月ごとに1つだけ新しい習慣を足す形が続きます。
私の店舗でも、効果が出たのは大がかりな導入ではなく、毎日のメモ書きや指示出しを少しずつAIに手伝ってもらう使い方でした。
なぜ電話予約が多い院は、カルテが散らかりやすいのか

原因を整理すると、対策が見えやすくなります。
- 情報が複数の場所に分かれる:予約表、電話のメモ、施術後のカルテ、お客様とのLINEややりとりなどが別々になっている。
- 書く人によって書き方が違う:「腰痛」「腰がしんどい」「L4あたり」など表現が人によって異なり、後から探しにくい。
- 電話中は丁寧に書けない:走り書きが読めなくなる、または電話を切ったあとに忘れる。
- 過去の経過を読み返す時間がない:次のお客様が来る直前に、前回の記録を探している余裕がない。
つまり、問題の中心は「記録がないこと」より、記録の形がバラバラで、読み返しにくいことです。この整える作業こそ、AIが得意な分野です。
半年間の全体像(想定ロードマップ)

| 時期 | やること | ゴール |
|---|---|---|
| 1か月目 | 現状の棚卸しと、個人情報のルール作り | AIに入れてよい情報・ダメな情報が決まる |
| 2か月目 | カルテの書式を統一し、走り書きをAIで整える | 記録の「型」ができる |
| 3〜4か月目 | 次回来院前の要約メモ、電話応対メモの整理 | 読み返す時間が短くなる |
| 5か月目 | フォロー連絡文、スタッフ向けマニュアルをAIで作る | 属人化が減る |
| 6か月目 | 振り返りと見直し、続けるものの絞り込み | 無理なく続く運用に落ち着く |
ステップ1(1か月目):AIを使う前に「入れない情報」を決める
いちばん大切なのはここです。AIの使い方より先に、ルール作りから始めます。
健康に関わる情報は、特に慎重に扱う
体の不調や通院歴などの情報は、個人情報の中でも取り扱いに配慮が必要とされる種類に近いものです。ChatGPTなどの外部サービスに入力する場合は、サービスの設定(入力内容が学習に使われない設定など)や利用規約を確認し、そのうえでお客様の情報を特定できない形にして使うのが安全です。サービスの仕様は変わりやすいので、執筆時点の情報を鵜呑みにせず、必ず最新の公式情報を確認してください。
匿名化のルール例
私が店舗の記録をAIに整理させるときも、お客様の名前や連絡先は入れないようにしています。整体院なら、次のようなルールが現実的です。
- お客様は「A-017」のようなIDで呼ぶ(氏名はAIに入力しない)。
- 氏名とIDの対応表は、AIとは無関係の場所(紙のファイルやオフラインの管理)に置く。
- 入力するのは「40代・男性・デスクワーク」のような大まかな属性だけにする。
- 電話番号、住所、生年月日、勤務先名、家族の名前は書かない。
- 「珍しい職業」「特定の出来事」など、それだけで個人が分かる情報も避ける。
- スタッフ全員がこのルールを守れるよう、A4一枚にまとめて貼り出す。
お客様への説明も考えておく
記録の取り扱い方法を変える場合、利用目的や管理方法の説明が必要になることがあります。プライバシーポリシーや院内の掲示をどう整えるかは、行政書士や弁護士などの専門家、または個人情報保護委員会の公開資料で確認してください。ここは私が断定できる領域ではありません。
この段階で「AIは使わず、まずルールだけ決める」という1か月があっても構いません。むしろ、この土台があるかどうかで、その後の安心感がまったく変わります。
個人情報保護の基本を一冊で押さえておきたい方には、小規模事業者向けに書かれた入門書も役立ちます。
ステップ2(2か月目):走り書きを「型」に流し込む
まず、カルテの項目を決める
AIに整理を頼む前に、記録の「型」を決めます。表計算ソフト(ExcelやGoogleスプレッドシート)の列にするイメージです。
- ID(A-017など)
- 来院日
- 予約経路(電話・紹介・飛び込みなど)
- 主訴(お客様が気にしている症状を、本人の言葉で)
- 気になる部位
- 施術内容
- 施術後のお客様の反応
- セルフケアのアドバイス
- 次回の提案
- 連絡メモ(キャンセル、時間変更の希望など)
項目は多すぎると続きません。最初は5〜6個で十分です。
プロンプト例:走り書きを型に整える
施術のあとに、手元の走り書きを次のようにAIへ渡します。名前は入れず、IDだけにします。
あなたは整体院の記録整理を手伝うアシスタントです。以下の走り書きを、「主訴/気になる部位/施術内容/お客様の反応/セルフケア/次回の提案」の6項目に整理してください。
ルール:書かれていないことは推測せず、「記載なし」としてください。病名の断定や診断はしないでください。
走り書き:「A-017 40代男性 デスクワーク 3日前から腰が重い 立ち上がりがつらい 骨盤まわり中心 終わって楽になったと 座り方指導 2週間後また」
ポイントは、「書かれていないことは推測しない」「診断しない」と明記することです。AIは気を利かせて、もっともらしい内容を補ってしまうことがあります。記録に関しては、補完はしてほしくありません。
出てきた結果は、必ず人間が読んで直す
AIの出力は、下書きとして扱ってください。数字、日付、部位、お客様の発言のニュアンスなどは、施術した本人が確認して初めて「記録」になります。
私の店舗での似た経験
私の店舗では、買取の際の商品メモ、スタッフへの引き継ぎ、仕入れの記録などを、最初は人によってバラバラに書いていました。AIに「この項目の順番で整えて」と頼む形に変えてから、後から探す手間がかなり減りました。同じ内容を、人によらず同じ形で残せるようになったのが大きな変化です。整体院のカルテでも、この「型にそろえる」効果は同じように期待できると考えています。
ステップ3(3〜4か月目):読み返す時間を減らし、電話の取りこぼしを防ぐ
次回来院前の「30秒要約」を作る
何回か通っているお客様の記録が増えると、読み返すだけで時間がかかります。そこで、過去の記録(匿名化済み)をまとめて渡し、要約を作ってもらいます。
以下はA-017さんの過去4回分の施術記録です。次回の来院前に確認できるよう、(1)これまでの経過の流れ、(2)毎回出ている共通の訴え、(3)前回宿題にしたセルフケア、(4)次回確認したいこと を、合計200字程度で整理してください。記載のないことは推測しないでください。
記録:(ここに貼り付け)
これで、お客様が到着する数分前に、さっと前回までを思い出せます。「覚えていてくれた」という安心感にもつながるはずです。
電話応対のメモを整える
電話予約が多い院では、通話中の取りこぼしが課題です。次のような運用が現実的です。
- 電話中は、キーワードだけをメモする(例:「A-017/木曜午後/腰/初回より悪化?」)。
- 閉店後、または空き時間に、メモをAIで読みやすい文に整える。
- 日時、症状の変化、キャンセルや変更の希望を人間が最終確認する。
通話の録音や文字起こしは、お客様に伝えずに行うとトラブルのもとになります。使う場合は、事前に案内するなどの配慮が必要です。最初は録音に頼らず、メモからの整理で十分です。
よくある質問を一覧にする
電話でよく聞かれることは、ほとんど決まっています。「初回は何分かかりますか」「着替えは必要ですか」「妊娠中でも受けられますか」といった内容です。過去1か月の電話の内容を思い出して、よくある質問とその答えをAIに整理させると、スタッフ間で答え方がそろいます。ただし、体の状態に関わる回答(受けられるか、受けられないか)は、必ず施術者が判断する前提で作ってください。
トーンの使い分けは、AIが得意
私はeBayなどの海外EC対応で、お客様の状況に応じて文面のトーンを使い分けてきました。丁寧に謝る場面、事実を淡々と伝える場面、距離を縮める場面などです。この「トーンの調整」は、AIが得意とする領域です。整体院でも、初めての方へのご案内、久しぶりの方へのご連絡、キャンセル連絡への返信などの文面を、「やわらかく」「簡潔に」と指示して整えられます。
ステップ4(5か月目):フォロー連絡と、スタッフ向けマニュアルを作る
フォロー連絡の下書き
来院後のお礼や、次回の来院を促す連絡は、売り込みに見えないことが大事です。次のように頼みます。
40代男性のお客様に、施術の2日後に送るフォローのメッセージを作ってください。押しつけがましくなく、体調を気づかう内容で、100字以内。宿題にしたセルフケア(座り方の見直し)に軽く触れてください。医療的な効果を断定する表現は避けてください。
最後の一文が重要です。整体・施術に関する広告や案内では、効果を断定する表現が問題になることがあります。そうした表現の基準は業種や資格によって異なるため、自院が該当するルールを管轄や業界団体の情報で確認し、AIの出力もそれに沿って直してください。
スタッフ向けマニュアルの作成
私の店舗では、スタッフへの業務指示やマニュアル作りにAIをかなり使っています。口頭で伝えていたことを、箇条書きにして渡し、「新人にも分かる手順書にして」と頼むだけで、読みやすい下書きができます。整体院でも、次のような資料が作れます。
- 電話応対の流れ(挨拶、確認項目、復唱、締めの言葉)
- カルテ記入の手順と、匿名化ルールの説明
- 予約変更・キャンセルを受けたときの対応
- クレームや不安を訴えられたときの、一次対応の流れ(最終判断は院長)
スタッフが少ない院でも、「院長がいないと分からない」状態が減るのは大きな安心です。
ステップ5(6か月目):振り返って、続けるものだけ残す
半年たったら、次の3つを確認します。
- 続いているか:使われなくなった手順はないか。
- 時間が減ったか:カルテの記入や、前回の確認にかかる時間は体感でどう変わったか。数字で測る場合は、自院の記録にもとづいて確認する。
- ミスや不安が出ていないか:AIの出力を信じすぎて間違いが残っていないか、個人情報のルールが崩れていないか。
うまくいかなかったものは、やめて構いません。AIの活用は、全部を使いこなすことが目的ではなく、自分の院に合う分だけを残すことに意味があります。
実務上の注意点:ここだけは外さないでください
1. 氏名・連絡先・生年月日などは、AIに入力しない
ステップ1で決めたルールを、繰り返し見直してください。うっかり貼り付けてしまう場面は、忙しいときほど起こります。入力前に一度見直す習慣を、院全体で作りましょう。
2. AIに診断や施術方針の判断をさせない
AIはもっともらしい文章を作りますが、正確さは保証されません。症状の原因を決めつけたり、施術の可否を判断したりする用途には使わないでください。医療機関への受診が必要なケースの判断は、施術者の専門的な責任で行うものです。
3. 出力は必ず人間が確認する
日付、部位、お客様の言葉、宿題の内容は、AIが書き換えてしまうことがあります。記録として残す前に、必ず施術者本人が読んで直します。
4. 記録の保管とバックアップを決める
AIで整えたデータをどこに保存するか、誰が見られるか、紛失したらどうするか。パソコンの共有設定、パスワード、バックアップの方法も、同時に整理しておきましょう。
5. スタッフ全員で合意する
一人だけが使い方を知っていると、ルール違反に気づけません。月に一度、10分でよいので「今月AIをどう使ったか、困ったことはないか」を共有する場を作ってください。
6. 法律や業界の基準は専門家に確認する
個人情報保護法、広告表現の基準、記録の保存義務などは、業種・資格・地域によって異なります。この記事は一般的な考え方の紹介であり、法的な助言ではありません。迷う点は、専門家や管轄の窓口に確認してください。
7. サービスの仕様は変わる
ChatGPTの現行モデルはGPT-5系ですが、料金、機能、データの扱いは頻繁に変わります。この記事の内容は執筆時点の考え方にもとづいています。使う前に、必ず公式の最新情報を確認してください。
「うちのような小さな院には関係ない」と思っている方へ
私が運営している店舗も、地方の小さな実店舗です。スタッフも少なく、大企業のようなシステムはありません。それでも、店頭POPや商品説明文、SNS投稿、相場のチェック、スタッフへの指示書、会議資料など、日々の小さな事務作業をAIに手伝ってもらうことで、本来の仕事に時間を回せるようになりました。
整体院も同じです。施術という「人にしかできない仕事」に集中するために、記録・連絡・資料作りといった周辺の作業を軽くする。AIはそのための道具です。大げさな改革はいりません。まず1か月、ルールを決めることから始めれば十分です。
まとめ:半年かけて、少しずつ「読み返せるカルテ」にしていく
- 電話予約が多い院のカルテが散らかるのは、記録の形がバラバラで、読み返しにくいから。
- 高額なシステムは不要。AIは「清書係・要約係・探し物係」として使う。
- 最初の1か月は、AIに入れない情報(氏名・連絡先・生年月日など)を決めることに使う。
- 走り書きを「型」に整え、次回来院前の要約、電話メモの整理、フォロー連絡の下書きへと広げる。
- 診断や判断はAIに任せない。出力は必ず人間が確認する。
- 半年後に振り返り、続くものだけを残す。
次のアクション
今日できる一歩は、「AIに入れてはいけない情報」を紙に書き出すことです。それができたら、来週、カルテの項目を5つだけ決めてみてください。
自院の業務に合わせた進め方や、匿名化ルールの作り方、スタッフ向けの運用設計に迷う場合は、AI導入のご相談も承っています。EC運営と実店舗運営の両方で、小さな規模のAI活用を実践してきた立場から、無理のない進め方を一緒に考えます。まずは現状の困りごとを、気軽にお聞かせください。
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